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 ※ 簡単ではありますが、お断りを ※

 この作品は、「遙かなる時空の中で(無印)」の二次創作小説です。
 設定はゲーム終了後の世界。主人公(作品上デフォルト名:)は、八葉の力を借りて世界を救っています。

 7Shinoは、「遙かなる時空の中で〜八葉抄〜」と「遙かなる時空の中で〜舞一夜〜」の内容は存じておりません。
 作品登場人物が一緒であるのにストーリーを全く知らないため、関係あるかないかと言う判断すら出来かねませんが、まあ、とにかく、無印だけを想定したお話です。

 このことは「遙かなる時空の中で〜盤上遊戯〜」にも同じことが言えますが、「遙かなる時空の中で(無印)」を基にしたゲームだったはずと認識していますので、除外しています。

 長くなりましたが、それでももしよろしければ。





「白き龍の神子」 ―― written by 7shino.



――思えば、おかしな因果だった。

 今、自分の中にある不可思議な力は、そもそも『男』の行いによって齎《もたら》されたものだ。
 この世を得んと望む彼が、自分自身の力とするために、その器として、わたしは選ばれたに過ぎない。
 それがために、わたしは現代の世界から飛ばされて、古き京の都に召喚されてしまった。


 突然発生した、竜巻のような風。
 井戸から湧き上がったそれは、ほぼ、強制的にわたしたちをここへ誘《いざな》った。――そう、この聖なる力の呪縛のおかげで、友人達二人まで、この世界に巻き込んでしまった。
 とはいえ、結果的に彼ら二人とて、この世界でわたしと同じような役目を与えられたのだけれど。

 身に宿った力がために、ただの高校生だったわたしが京の都を救う正義のヒーロー。救世主になった。
 仲間を集めて、力を蓄えて、そして。
 この世界に来る元凶となった諸悪の彼を倒すために。


「力だけじゃ、なんにもならない!」
 告げたわたしの言葉に、男は笑う。
――諦めない。
 そう言った男の、仮面に隠れたその顔は見えない。
 けれど、その口元は、どこまでも愉快そうに弧を描いていた。


「意味が無いと言ったのは、わたしなのに……」
 彼を倒したのは、わたしではなかった。
 わたしの願いに応えてくれた、仲間達だった。
「……力だけ有っても、か……」

 もう、一月になる。

 わたしは、自分が何をしたのかを、だんだんと思い知らされることとなっていた。
 何をしてしまったのかを。


 世界を救うヒーローは、人気者である。
 皆が皆、わたしの正体を知っている。京を救ってくれる、救世主なのだと。
 いまや、仮初めでしかない肩書きを呼ぶ、皆の声が絶えない。

 わたしには、力なんて無いのに。
 皆のためだけにある、正義の力なんて……。


 魑魅魍魎《ちみもうりょう》がはびこる大地。
 決戦に対するためだけの仲間だったけれど、未だみんなわたしに従ってくれている。
 すべては、京を守るために。

 健闘するわたし達の姿は、逆に人々へ不信感を募らせるものになってしまった。
 疑うかのようにわたしたちを見やる人々。
「あの気高い種族は消えたのに、なんで、平和にならないんだい?」
 じわりじわりと、その疑うような陰の気で、土地が穢れていく。

 わたしの中の『わたし』としての人格が、蝕《むしば》まれていく。


 全てはわたしの咎《とが》である以上、何もしないわけにはいかなかった。――いや、むしろわたしがしなければいけなかったことなのに。
 やがてわたしは、ひっそりと計画を立てることとなった。

 かつて、男との決戦のために集めたお札を手に取る。
 広い京の世界の中には、人々を脅《おびや》かした怨霊――彼ら≠ェ、それぞれの住処《すみか》としての領域を持つ地域が多々あるのが好都合だった。

 仲間達に『気の巡りが悪い』と言っては、目的地へと連れ出してゆく。
 ただ、この方法は成功率がある条件で変わってしまう。……仲間には、あの陰陽師の彼がいたから。
 かつて憧れた、わたしの想い人。彼も、彼なりにわたしを想ってくれていたのだと思う。

 だけど、わたしは、気付いてしまった。
 彼が、危惧していた言葉が、いつしか自分自身に降りかかる言葉として成り代わっていることに。

――そのための道具なのだと、告げたのは誰?

 他ならぬ彼に、嫌われたくは無かった。
 大切な皆がいる世界じゃないかと、わたしは思いなおすことにした。


 計画は、だんだんと成功の兆しを見せてきた。
 陰陽師の彼は、どこか安堵している。その安堵が、空気の澱みが全く無いと、ただただそう思ってくれていることを願いたい。

 各地域を回ってお札となり手札となった元怨霊である彼ら≠ノお願いをしてた。
 一か八かの苦肉の策だったが、切なる願いと思いは天に届いたのだ。――東西南北それぞれに、大地の龍脈を底上げさせることが出来たのだ。

――もう少し、もう少しだ。

 後すところはあの四枚だけだった。
 最後の砦、その神に仕えるという四神のみ。


 星の姫の邸のある部屋にそっと忍び込む。与えられた対の内の一つではあるものの、勝手知ったるなんとやら、だ。
 目的のものを前に、わたしは胸が締め付けられそうになる。

 こちらにやって来たときに着ていた、淡いクリーム色のスカート。緑のブレザー。そして、こちらに慣れるためだからと言われて、仕方なく袖を通した、紫の水干が飛び込んでくる。

 僅かに、気配を感じる。白き力が移っているのだろうか。纏ったその瞬間、神々しいまでの感触が直に伝わってくる。
 紫の水干を、トレードマークにしていた頃の自分が浮かんでは、消えた。

 思い出だけが色褪せないまま、鮮やかに胸に残る。


 あれから、胸にある思いを、わたしは再び己に言い聞かせる。
 成すべきことを果たさなければいけない。わたしは、この世界を救うために来たのだから、と。

――身を賭すことに、恐れるなんて、救世主なんかじゃない。


 決戦を遂げた地に着いた。
 もう、わたしの手札として働いてくれた彼ら≠フ姿はこの手に無い。四神すら、元の祠の仲に戻しておいた。
 何故、わたしが辿り着けるのだろうなんて、疑問にすら思わなかった。
――与えられた役目なのだ、これは。
 京を救う為の。この地に平穏を戻すが為の。

 現に、かつての彼ら≠ニて、悪霊に過ぎなかったはずなのに、適切な場所へこの白き力を使ってさえすれば、土地特有の五行の力は高まった。気が、清浄に戻った。
 仲間達はもう戦う必要も無く、そのわたしの仲間となるために得た力も失われたと聞く。

 すべては、無に戻ろうとしている。
 わたし達が、ここに来た理由も、失われようとしている。

――願いは、叶うのだろうか。
 どうか、わたしがために巻き込まれた友人達が、元の世界で在れるようにと、無力なわたしは願うしかない。


 いまやもう、平和な世に不釣合いな力を持つものは、唯一わたしだけ。
 対の存在としてあった彼女も、あの日のおかげで黒の力を潰《つい》えてしまったらしい。自由には扱えなくなったのだと、いつしか言っていた。

 彼女は、ちゃんと役目を果たしていたのに。

 後悔ばかりが残る。
――でも、今こそ。役目を、果たさなければいけない。
 決意を胸に、天を見上げれば、わたしを迎える日の光が指した。


「――我が神子」

 本当は、知っていた。
 神様なんていないってこと。


 わたしを選んだ元凶の男はともかく、何故この龍も、この身に白の力を与えたのだろう。
 醜い自己愛しかないわたし。男を倒さなければならないその日も、わたしは怖くて、何も出来なかった。

 だから、不思議だった。

 いつの間にか自分の身が、決戦の地から移されていて、白の空間にいた。
 目の前には大きな龍ではなく、人の姿を模しただろうと察せられるもので、どこか違和感が残る。

 金の目、白銀の髪。白い狩衣姿。わたしの力の源を司る、その存在。
 何故だか、笑ってしまった。
――何故あなたのほうこそが、泣きそうな顔をしているの?

「役目を果たしに来ました」
 遅れてごめんなさいと、謝ろうとしたそのときだった。


 龍の目が見開かれる。
「そなたが――」
 言い澱むような物言いに不思議に思って、龍の視線の先を伺うと、白と黒の衣装が見えた。
 目の前に立つ、陰陽師姿の彼。


「どうして?」
 呟くわたしの言葉に、彼は必死になって言うのだった。
「神子!」
 嗚呼、彼はやはりわたしをその名で呼ぶのか。

 夢見ていた日々が蘇る。
 無邪気に笑って、京を救うと、断言していたあの頃のわたし。

 油断して、挫けた心が涙を流す。
 はっと息を呑んだ彼と龍に気づいて、わたしはまた笑った。

「だって、わたし、そのために京に呼ばれたんだもの」


――京に龍を呼びし神子が、世界を救う。

 悪を滅したのが確かにわたしたちであっても、人々の恐怖は消えず、疑心は生まれ、大気は澱《よど》み続けたままだった。
『龍は、降りなかったじゃないか』
 だから、京はいつまで経っても救なわれず、わたしと友人は京に取り残されたまま。


「止めてみせる! 何故、お前がそのような目にあわなければならないんだ!」
 感情を爆発させて彼は言う。
 抱き寄せられて、彼の体温を感じた。鼓動が続く胸の音。わたしを締め付けんとして力んだ腕の感触。
 彼は本当に、感情が無いと言っていた彼なのだろうか。
「――嘘ついてたんだよ。わたし」

 何故だろう。
 彼の人間らしい変化に、自分を救おうとする言葉に、嬉しいはずなのに。
――何も感じないでいる自分がいる。

「それに力だけあっても、意味が無いもの。わたしは、そのためにいるんだから」


 言うしかなかった皮肉の言葉。
 元凶のあの男が聞けば、笑うだろうか。

――お前とて、同じではないかと。


 彼の腕の拘束を解いていく。本来ならば、彼の力にかなうはずもないのに、なんら障害にならなかった。
 呆然と、彼がわたしを見下ろしている。
 そんな馬鹿な、と声無く呟くのを見てしまった。



 わたしは、思いを告げる。


 あの日、男と戦った日。
 わたしすっごく怖かったんだ。

 みんなが苦戦してて、白い力に守られたわたしだけが行動できたのに。
 現に、この力だけは正直に反応しててね、やるべきことをやろうとしていた。

――龍を、降ろすために。

 わたしすっごく怖かったんだ。
 対の黒の力を持つ彼女のようになるんだろうって思ったから。

 怖かった。

 とても、願えなかった。
 京を救うためだけに、龍に身を任せるだなんて。

 ごめんなさい。

 本当は、わたし、呼べたの。
 降ろすことができなかったんじゃない。
 降ろせないと、思ってしまったからなの。

 神子、失格だよね。



 告白した思いに、彼はとうとう泣いていた。
 生まれたばかりの感情を、制御しきれないのだろうか。
 それとも、最早止めることのできないわたしの決意と圧倒的な神の力に、対抗出来ないと、彼が気付いたからなのか。
――神子、神子。お願いだから。
 縋るようにわたしを引きとめようとする彼。

 神子、か。
――本当は一度でもいいから『茜』と、そう呼んで欲しかった。

「……どうか、無事に……」
 願えば、彼の姿は目の前から消えていた。
 わたしの願いは、龍に届いたのだ。



「我は、間違えたのかもしれないな」
「……何をですか? まさか、神子選びのこと?」
 聞くまでも無いだろう。
 わたしは京を脅かした男に召還されたのだから。

 目の前の龍そのモノに選ばれていたのなら、今、わたしはもうここにはいなかったのだろうか。

 龍は、言う。思い悩むわたしに。
「そなたは、望んだだろう? 名を呼んで欲しかったのだと。一目会いたいと。我は、我の神子の望みをかなえたい。だから、ヤツを呼んだ。……だが、間違いだったようだ」
「……恐れ多いかもしれないけど、それは『間違い』だったかもね。だって、あなた、龍神様なんでしょう?」

 おかしいじゃない。
 わたしが望んだからと言って、わたしなんかのために、わがままをかなえてくれちゃって。

 おかしすぎるじゃないか。
 神様である龍が、わたしごときのために力を使うなんて。

 わたしは、龍の神子なのに。


「どうか、お願いします。龍神様」
 願いをかなえてくれるのなら、わたしは願う。
「言うまでもないのかもしれない。でもそれは、わたしがここに来た役目そのものである以上、願わずにはいられない」

 たとえ、龍がわたしの胸の内を全て知っているのだとしても。
 龍は、望みをかなえてくれるだろうか。

「京を救うためにここに来ました」
 一月前のその日、我が身可愛さに選べなかったこと。
 そのために、京は未だ苦しんでいる。
 仲間達にも不審の目が伸びて、友人達も、現世に帰られずにいて。

「だから、どうか、お願いします」
「我が神子の、願うままに――」

「京を、在るべき姿に」

――『白き龍の神子』Fin.――
 written by 7Shino.



Thank you for reading all to the last!

サイトup:07.09.29.


 以前の日記にも書いた、書きたかったお話……だったりします。
 お話といえるほど、いいものではありませんが。
 あ、主人公のデフォルト名は「元宮あかね」で「茜」ではないのですが、完全にわたしの趣味ですので、お気になさらず。

 話のきっかけは、「遙か(無印)」と「遙か2」を交互にプレイしていた際に、不思議に思ったから。
――なんで1だけ、龍を呼ばない選択肢があるんだ、と。

 本当はもっと長い話想定してて、「遙か(無印)」と「遙か2」をリンクさせてやろうと意気込んでいた日々もあったのですが。「遙か」3の夢のような設定出ちゃうと、悲しくなったので断念しました。
 もうずいぶんと前にプレイして以来、やってませんので、ちょっとあやふやで怖いところもあるのですが。

 ついでに、この話関連で、「遙か2」直前の『男』アクラムの独白を載せておきます。 → おまけ。



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